Column 6.


 Accessory  アクセサリー








30年代のスタイルを嗜好していくと、現代ではあまり使用されることのなくなったアクセサリーを避けては通れなくなる。当時のオールドマガジンを見ると、当時の紳士達がそれはエレガントに、そして粋にアクセサリーというものを多用していたことがよく判る。一口にアクセサリーといっても多々あるのだが、ここでは特にこのスタイルでも頻繁に使用されていた基本的な3アイテムとして、カラーバー、タイバー(タイスライダー)、カフリンクスの3種についてふれてみたいと思う。



◆ Collar Bar カラーバー ◆

カラーバーは、現代ほどクラバットにウエイトとコシがなかった当時、「締めたタイのノットが緩まないよう襟元に固定する」という役割と、且つ「締めたタイのノットを美しく見せる」、という外面の美的装飾の役割の両方があったと思われる。
カラーバーをその使用の方法別に分けると、安全ピンのような針で襟に直接刺して留めるタイプの「カラーピン」と呼ばれるもの(上の画像左)、直接針で刺さず、クリップのようになったバーの部分で襟を挟み込むタイプの「カラークリップ」とも呼ばれるタイプ(同真中)、そして襟に穴の空いたピンホール・カラーシャツに付ける、端をねじで止めるしくみになっている「カラーバー」と呼ばれるもの(同右)の3種類が見受けられる。当時の雑誌を見ると、どれもcollar bar、 collar holderといった呼ばれ方をしていたようなので、このサイトでも総称としての意味合いで「カラーバー」Collar Barという呼び方をすることにする。
私がよく使用しているカラーバーは、最も使いやすい「カラークリップ」にあたるもの。、首元をキリリと引き締まった気分にしてくれると同時に、外見的にはドレスシャツの両襟と立ち上がったクラバットのノット、そしてその後ろでキラリと光るカラーバーの織りなす美しいシンメトリーが、エレガンス溢れる首元を演出してくれる。
当時のものを探すと、細かい意匠や柄が施された洒落たものに出会うことがしばしばある。当時のメーカーとして有名なのはSWANKやKrementz、NU-LOKといったメーカーがあったが、無銘のものにも、素敵なものがあったりする。
1930年代のスティール製の一品。両端にアールデコ調の意匠があしらわれたもの。

同じく1930年代のヴィンテージ・スティール製。細かいラインが縦に掘り込まれている。

1930年代のSWANK社製。ゴールドトップ。シンプルで30sに限らず応用範囲の広い一品。

1930年代製のSWANK社。紐が結われたかのような意匠がチャーミングな一品。

同じくSWANK社の1930年代製のもの。両端の意匠が特徴的な一品。

1940年代製。カラーを挟む部分の造りが変わった一品。




◆ Tie Bar タイバー ◆

タイバーは、当時の薄く軽いネクタイがヒラヒラとたなびくのを胸元に留めておくのに役立った。
タイとシャツを重ねて滑り込ませて挟む様から「タイスライダー」とも呼ばれる向きもある。

当時のものはフレームが細く、所属するクラブや団体のカラーにあわせたイニシャルや彫金のあしらわれた物、犬や馬などの動物の意匠の彫金のもの、アールデコ調の幾何学模様の柄があしらわれた物等、様々な意匠が付けられた物があった。中にはタイバーに鎖をつけてより装飾性を高めたタイ・チェーンといったものなどもあり、cravat chainといった呼ばれ方をしていた。
レジメンタルストライプのもの。
大学かなにかのクラブ組織のものだったのであろうか。
こうしたレジメンタルのパターンはクラバット同様、タイスライダーでも頻繁に見かける。


アールデコ調の幾何学的なパターンを配したもの。
柄としてはクラバットに最もあわせづらいパターンではあるが
30年代当時の時代感が最も色濃く出たタイプ。


30年代40年代当時の面白いものとして、このような「串刺し型」のタイスライダーも多く見かけた。剣や矢といったモチーフのもので、センターを空け、その間にクラバットを入れ込んであたかも剣や矢が刺さっているかのような錯覚を見る人に与える。ちょっとした話題づくりには役立ってくれそうな、ウィットの効いたタイプ。

犬や馬の動物の意匠のもので、かつ装飾的なニュアンスの強いクラバット・チェーン。
英国人の犬や馬との結びつきの深さを窺わせる。




◆ Cuff Links カフリンクス ◆

現代でも使用頻度は割とあるかと思われるカフリンクスは「袖を留める」という実用的な役割と、
留めることによって「袖先をエレガントに見せる」と言う装飾的な意味合いも兼ね備えている。

繋ぎ目がチェーンになったものや、袖穴を通った支柱が折れ曲がるタイプのもの、スナップボタン式になったものなど様々なタイプがあった。袖先のアクセントを担った大事な役者と言える。

1930年代のデッドストック。エナメルが綺麗に残っている一品。エナメルで埋められた残りの部分には細かいギョシェ加工が施されている。アールデコの雰囲気が漂う一品。


1930年代のアンティーク。これもアールデコの雰囲気を漂わせた一品である。八角形の周囲の内六辺の部分を赤と黒のエナメルが塗られ、中の部分は細かいラインの彫りが施されている。この頃のカフスはチェーンで繋がれたタイプが多いが、これは当時のものの中でも珍しい、バータイプのもの。

同じく1930年代の一品。ブラス(真鍮)製。
アールデコ調の幾何学柄をエナメルで埋め、真中の部分にギョシェ加工を施している。



1930年代の真鍮(ブラス)製。
六角形の意匠が旧帝国ホテルロビーにある
フランク・ロイド・ライトによるデザインの椅子を想起させる。

(画像出典:「Casa BRUTUS
特別編集 誰にでもわかる20世紀建築の3大巨匠 
ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、F.L.ライト」/株式会社マガジンハウス刊)


1930年代の如何にもアールデコといった雰囲気の柄が嬉しい一品。
黒とブルーの柄部分はエナメル。


1930年代製のスナップボタン型のダブル・フェイス・カフス。ブラス製。
真鍮の土台に、グリーンと黒のアールデコの柄が施された一品。
スナップ部分には「MADE IN ENGLAND THE "REGNUM"」と刻印が入っている。




当時のオールドマガジン等を見ると、こうしたアクセサリーの広告が非常に多く掲載されていた。特にクリスマスの時期の号等は現代同様にギフト特集としてこうしたアクセサリーを集中的に掲載するものまで見受けられる。当時のメーカーではSWANK、Krementz、NU-LOK、Hickokといったメーカーの広告をよく目にする。
上の画像は、当時人気のあった、SWANK、Krementz、NU-LOK、HICKOKの広告。いずれも1930年代。
右上のKrementzの広告には当時の銀幕のスター、アドルフ・マンジューが一役買っている。





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