Column 1.


 Oxford Buggs オックスフォード・バグズ







 1930年代の紳士服飾のアイテムの中で、特に当時ならではの特徴的だったアイテムとして、Oxford Buggs(オックスフォード・バグズ)と呼ばれるトラウザーズがある。第一回目の今回は特にひときわ太めの幅で有名だったこのアイテムについて書いてみたいと思う。

そもそもこのオックスフォード・バグズ、タイトめのトラウザーズが主流の現代においては、そのトレンドと対極をなすアイテムである。
その起源は、1920年代後半の英国の名門大学・オックスフォード大学に由来する。若い世代が何か新しい文化や潮流を生み出すきっかけを作り出すというのはいつの時代も変わらぬようで、このアイテムもそうした当時の学生たちによって産声を上げた。当時この大学では、既に学生達の間でニッカーズが大変流行っていた。現代ではクラシックでトラディショナルなアイテムであるニッカーズも当時の大学の教授陣にとっては眉をひそめるアイテムだったようで、大学側はそれを学生達が教室内で穿くのを禁止にした。それでもこのアイテムに愛着のあった学生達は、ある妙案を思いつく。ニッカーズを隠すためにその上に、更に幅の太い、たっぷりとしたパンツを穿くようになったのである。それがオックスフォード・バグズの起こりだと言われている。ニッカーズの上に穿くため、膝周りは約66a、裾周りは62aにも達したものもあったといわれている。その幅の太いトラウザーズを穿く学生達の姿は一見してそれと判るもので、ある意味ではそのアイテムを穿いていることによる「仲間意識」が芽生えたであろうことは想像に難くない。


一説にはこれは当時のオックスフォード大学のボート部の部員が、レースや練習後にショート・パンツの上に穿いていたタオル地の幅広のパンツをヒントに思いついたものという説もあり、最初にこうしたトラウザーズを穿き始めたのがボート部の部員であったなら、彼らがそうした仲間意識をこのアイテムを穿くことで、より強く共有したかも知れないことは尚更ありえたことではなかっただろうか。いずれにしてもこの妙案による賜物は、学生達の間にあっという間に広まり、今で言う「マストアイテム」のような存在になった。そして当時英国に訪れていたアメリカアイビーリーグの学生達の目にも留まるところとなり、これを非常に気に入った彼らは自国に持ち帰り、アメリカでも一気に広まることとなったのである。結果的にこのアイテムは、大西洋を挟んだ英米を席捲するまでのアイテムとなった。




その一大ムーブメントは、アメリカにおいては「アングロマニア」といわれる英国心酔者達を捉えて離さず、また英国内においても当時の名優・Jack Buchanan(ジャック・ブキャナン)がこのアイテムを颯爽と穿きこなして写真に納まるほどに大きな潮流となった。アラン・フラッサーの最新著書「DRESSING THE MAN」には、このジャック・ブキャナンの件の写真(左画像)が掲載されており、「England's answer to America's Fred Astaire」(=アメリカのフレッド・アステアに対する英国の回答)という言い方で紹介しているのがなんとも興味深い。やがてこの流行は下火になっていったが、この時のこうした潮流は、それまでなかったオッド・トラウザーズ(=上衣と揃いでない、独立したトラウザーズ)の成り立ちの過程の中で、トラウザーズ自体が独自の形を持ち始めた事例的なアイテムとして、紳士服飾史上においても重要なアイテムとなっている。(※参考文献:アラン・フラッサー著「DRESSING THE MAN」Harper Collins社刊 / 「男の服飾事典」アシェット婦人画報社刊)








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