今回はシンプルなシングルブレスト2ッ釦・ノッチドラペルのスリーピースをご紹介する。この一着は Good Wood 氏が SAVOY dressmaker にオーダーしたスーツで、私の記憶が正しければ恐らく氏が生前の沖坂氏にオーダーした最後のスーツとなった一着ではなかったかと思う。Gallery12 でも明記したが、 Good Wood 氏は沖坂氏の晩年にあたる時期は原点回帰志向で、非常にシンプルなスタイルをオーダーされていた。このスーツも「極端な言い方ですが、披露宴にも、葬式にも着て行って決して失礼にあたらないものを。」という条件で所望された一着だという話を、生前の沖坂氏から伺っていた。日頃派手目の柄のスーツばかり仕立てていた沖坂氏としては逆にこのオーダーが非常に新鮮だったらしく「メチャクチャ気合い入ってますよ。」と語っていたのを思い出す。

生地は英国製のデッドストックで、「Royal Britania 」というメーカーのもの。適度な厚みとコシのある生地で、色は全くもってベーシックかつクラシックなチャコールグレイ。「スーツはグレイにはじまり、グレイに終わる。」そんな表現が実にしっくりくる生地である。ちなみにラベルは Good Wood 氏の拘りでポケットの内側に付けられている。


  
仕様はスリーピースのシングルブレステッド2ッ釦、ラペルはノッチドラペル。考えてみればこのコーナーでシングルブレスト2ッ釦ノッチドラペルのスーツを紹介するのは実は今回が初めてである。ベーシック、トラディショナル、スタンダードと言った言葉がこれほど当て嵌まる仕様もないであろう。それでありながら、ウエストシェイプのラインやトラウザーのボリュームによって構成される全体の雰囲気が現代のスーツスタイルとは明らかに違った「正統さ」を醸し出している。往年の映画の中で見かけたような、本来の「正しい紳士服」の姿である。


  
正面画像。釦を留めたものと外したもの。釦はナットボタンを使用。


ウエストのシェイプ、そして肩のロープドショルダーが素晴らしい。

  
後ろからの姿。改めてバスト〜ウエストにかけてのシェイプラインが美しいのが判る。
教科書通りの砂時計型のシルエット。



ウエストコートはシングルブレステッドの6ッ釦。


  
ドレスシャツはシーアイランドコットンを使用したレギュラーカラーのもの。
クラバットは遠目には殆ど無地に見える細かいピンドットのプリントのものをあわせてみた。
胸元のチーフはベーシックにTVフォールドで。



   
改めて見直すとこの一着、Good Wood 氏の端正な感性と SAVOY dressmaker 沖坂氏の艶っぽい感性が絶妙に昇華された一着であった。是非とも今後の見本としていきたい。







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