このスーツは、1930年代当時のヴィンテージスーツを基に仕立てられたものである。SAVOY dressmaker の沖坂氏が Draper's Bench 退社後に最初に仕立てたもので、パターンは当時のものをベースにを起こし、縫製は全ての作業を手作業で行う職人に依頼したものである。


  
トルソに着せた全体の画像。カチッとしたショルダーライン〜抑揚の効いたウエストライン、適度にゆったりとしたゆとりを持ちながらストンと下まで下りたトラウザーズのラインは、昔ながらの紳士服のシルエットを踏襲した佇まいとなっている。


生地は英国DORMEUIL社のデッドストックを使用。グレー地にブルーとホワイトのオルターネイト・ストライプの生地は、ザラッとしたシャリ感と独特の重み、そしてシッカリとしたコシがあり、美しく仕上がったシルエットを長く型くずれさせないかのような雰囲気を感じさせる。ヴィンテージのスーツのように、大事に着ていけば今後長きにわたってつきあっていける、そんな風格を漂わせた一着。軽くて柔らかいことが至上主義となっているかのような現代の紳士服のトレンドとはかけはなれた、質実剛健な趣きをもつ生地である。



上衣は、シングルブレステッド三ツ釦という、クラシックで正統なスタイルを踏襲。注目すべきはウエストのシェイプ。アイロンワークによる癖付けと手作業でいせ込んで縫い上げていくため、これだけの形を出すことに成功している。往年のヴィンテージスーツのようなくびれ方は、このスタイルの好事家には堪らないシルエット。ボタンホールは全て手縫いでかがってあるため、非常に美しい縁に仕上がっている。


後ろからの画像。シュッとウエスト部でくびれ、ヒップに沿ってピッタリと流れるシルエットがエレガント。


バストアップ。美しいラインの肩線。袖付けはセミロープドショルダーに。


襟は当時のスタイルで多かったピークドラペル。
現代のスーツよりも幅が広めでボリューム感のある表情は
往年のヴィンテージスーツを彷彿させる。



襟のフラワーホールは手かがりの本開き仕様。襟の芯地はフラワーホールの淵から出ないように縫い代を逃げて作ってあるとのこと。往年の紳士のように、ちょっと花を挿したり、ポケット・ウォッチのチェーンを通して胸ポケットに入れる、と洒落込むのも一興である。



ジャケットの下にはウエストコート。上着の裏地はあえてお台場仕様にはせず、シンプルに仕上げてある。当時のヴィンテージスーツもこうしたシンプルな仕上げのものが意外と多く、逆にリアリティを感じさせられる。お台場仕上げ用の機械が既に広まり、その仕様のアイデンティティ(=手作りであること)がなくなりつつある現代においては、フルハンドでありながらもあえてこうした仕様にするところに、作り手の隠れたこだわりを見る思いがする。



トラウザーズは昔ながらのハイバック仕様のブレイシーズで履くタイプ。
股上の深いスタイルは、往年のオールドスタイルそのものである。



フロントはツーインタック。右側にフラップ付きのティケット・ポケット。
前立てはボタンフライフロント。



当時のヴィンテージスーツには、サイドアジャスターが付けられたものも多々見かけられたが、
この一着はサイドアジャスターなしの仕様にしている。



フロントからバックにかけてはややスラントした作りで、バックから見るとかなりハイウエストになっている。バック上部センター部分にはV字のスリットが入る。この一着はポケットがあえて左側部分にフラップ付きでつけられているのみである。バック中央にかけて斜めに昇っていくシルエットにあわせてポケットフラップも斜めに付けられているところが心憎い仕様である。


画像は1930年代当時の服飾本「 APPAREL ARTS 」のある号に載っていた写真。強く浮き出たウエストシェイプ、そして人体に沿った波打つような美しいシルエット。今回ご紹介のスーツの雰囲気と非常に似た雰囲気を漂わせている。




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